会長あいさつ

1 最初の一滴から

青森県臨床心理士会は平成4年2月に産声を上げ、それから四半世紀の活動を経て、平成最後の年に、公認心理師法に基づく「公認心理師」の誕生とともに、『青森県公認心理師・臨床心理士協会』に生まれ変わりました。名称とおり公認心理師と臨床心理士とで構成される職能団体となりました。

振り返ってみれば、その歩みは、青森県臨床心理士会の発足以前、県内で働く心理職が、弘前大学教育学部の大内五介教授の御厚意で、その研究室をお借りして、定期的に集まっていた「青森県臨床心理学研究会」に始まります。「県内に分散して働いている心理職も、たまに集まって交流を深めた方がいいのではないか」という大内先生のご厚意で「研究会」という名称で集まっていたものです。当時、事務局を担当しておりましたが、離散集合する参加者から毎回の研究会の発表者を探すのが一番の難題でした。

心理学の中でも、臨床心理学は傍流の傍流で、まったく評価のされない時代でした。当当時の基礎系の先生からは「臨床は科学ではない」「卒論に臨床や事例研究は認めない」「実証的な実験は必須」と釘を刺されたものです。形は変わっても、基礎系の先生方は、今も近視眼的な「エビデンス」を繰り返しています。

この日本に、『心理臨床』『こころのケア』を確実に実施できる「心の専門家」とその「システム」を創り、定着させたいという一念で、河合隼雄先生を先頭に、多くの議論を闘わせながら、「臨床心理士」制度の創設に取り組んできました。国立精神衛生研究所の『心理学科研修』に参加していた仲間(初代会長の津川憲次氏など)や青森県臨床心理学研究会の中心メンバーが核となって、この「臨床心理士」の誕生を契機に『青森県臨床心理士会』を発足させました。

発足当時の会員数はわずか15人(正会員14名、準会員1名)の言葉どおりの小世帯でした。徐々にではありますが着実に会員も増え、水面に落ちた一滴の水玉が、小さな波をつくり、次第に大きな波動となって広がっています。

平成31年春、今度は公認心理師の誕生とともに、会員の要件などを整備し、「青森県公認心理師・臨床心理士協会」に名称を変更しました。

県内の心理職の中核的な職能団体として、大同団結して、その使命を果たしていきたいと考えています。

2 公認心理師の誕生を踏まえて

青森県臨床心理士会は、公認心理師の誕生を踏まえて、多くの議論を経て、いち早く心理職の職能団体として、県内の心理職が大同団結していく道を選択しました。臨床心理士であることに価値を認め、公認心理師にはならない人もいます。これはこれで覚悟のある身の処し方だと思います。私も含めて多くの会員は、公認心理師もダブルで取得する方向を選択しました。これからは、臨床心理師、臨床心理士+公認心理師、公認心理師の三つの参加の仕方が生まれます。

臨床心理士と公認心理師とが袂を分かつ県もある中で、共に歩む協会方式は、最も有効で最適な選択だと確信しております。臨床心理士と公認心理師の差異をことさら強調される方もおられますが、実際には共通する領域の方が圧倒的に大きいことは自明なことです。職能団体の使命は、自己の専門性の維持・向上や会員同士の交流とともに、まず、専門職としての待遇や利益の保持・改善を念頭に置かなければなりません。我々のまわりには、社会的地位の確立・雇用条件の改善・新規の職場開拓・養成課程の構築・会員の資質向上など様々な課題が横たわっています。職能団体として、一つの強固な団体として存在していることの利点や機動性はいずれ証明されるものと思います。

しかし、公認心理師の誕生によって変わっていく側面もあります。サイエンス・エビデンス・医療重視・他職種連携の傾向は強まっていくでしょう。さらに、公認心理師の要件には、伝統的な心理職以外の分野からの参入も認められました。確実に、公認心理師は多様化していきます。むしろ、この機会をとらえて、広い視野で、心理職の世界を組織化し、活性化していきたいと考えています。

新しく公認心理師になられた方は、どうぞ、青森県公認心理師・臨床心理士協会に加入してほしいと思います。それぞれの分野で培ってきた知識やスキルを本会の活動の中で存分に発揮されることを期待しています。

もともと、青森県臨床心理学研究会の時代から、柔軟で弾力的な姿勢でやってきた組織なのです。

3 心理臨床のこれから!

心理臨床の守備範囲は、当初は、保健・医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働領域という言葉を使っていましたが、その領域はどんどん広がっています。警察や自衛隊に心理職が配置されることも普通のことになりました。現在では、これに止まらず、スクールカウンセラー、被災者支援、犯罪被害者支援、職場のメンタルヘルス、就労支援など活動範囲がますます広がって、面接室での「心理アセスメント」「サイコセラピー」だけでなく、アウトリーチ・地域支援の活動が期待されるようになっています。

さらに、大きな事件や事故が起きるたびに、社会から期待されるニーズは、ますます多様化・高度化し、明確なエビデンスや実効性が求められるようになっています。心理職には、これに応える広い視野と効果的なスキルが求められています。日進月歩の心理臨床の世界で、日々研鑽していかないと取り残されてしまう状況にあります。

心理臨床の世界は、長い歴史のある医療・教育分野にくらべると、まだまだ発達途上の段階にあると考えています。心理臨床は、既存の知識を「学ぶもの」ではなく、現場の経験の中から「創り出すもの」です。これからが勝負だと考えています。まず力をつけなければなりません。「独自の専門性のないところに他職種連携はない」ことを強調したいと思います。

資格はただのスタートラインです。公認心理師・臨床心理士が、名実ともに、質の高い信頼できる社会資源として評価されるよう努力していかなければなりません。役立つ!信頼できる!頼れる!そういう実力とパワーのある専門家でありたいと願っています。

4 煌めく一瞬

折しも、現代は、児童虐待・いじめ・不登校・引きこもり・ハラスメント・暴力・犯罪・精神疾患など心の問題が大きくクローズアップされています。心理職の仕事は、増えることはあっても減ることはありません。期待も大きいだけに、その要望に応えていくことは並大抵のことではありません。

しかし、心理臨床は、人の吐息やぬくもりを肌で感じることのできる素晴らしい仕事です。共に苦しみ、寄り添うことによって、双方に、思いもかけない新たな人生や世界が開けてきます。心理臨床は「出口の見えない暗闇のトンネルを共に歩くような仕事」ですが、そんな中で「煌めく一瞬」があることを感じたとき、これ程面白い仕事はありません。

ベテランの癌の専門医が「自分が末期の癌になって、初めて患者の気持ちが分りました」と述べていました。心理職も自分自身が心の問題を抱えた時に、はじめて「当てになる専門家がいない」「安心して相談できる場所がない」と気づきます。

月並みですが、青森県公認心理師・臨床心理士協会は、地域社会への貢献を視野に置き、会員の一層の資質の向上と会員の相互交流のために活動して参ります。これからも、皆さまの期待に応えられるよう全身全霊で努力して参りますので、ご理解とご協力を心からお願い申し上げます。

平成は臨床心理士が誕生し育った成長期の時代でした。心理臨床の世界も新しい季節を迎えます!

平成31年3月吉日

青森県公認心理師・臨床心理士協会

会長 関谷道夫